僕の名前は勇気！
中2でここの中学校の空手部員だよ。
去年の部活紹介の時に、先輩が披露していた「型」がカッコよくって入部したんだ。
小学校から一緒だった友達の智樹も同じ空手部員で、今ではお互いライバル同士。
組み手の成績は5勝5敗1分で実力はほぼ互角なんだよね。



ある日の部活前僕が更衣室で着替えてると、
「おい勇気、見てくれよ！」
と智樹が呼ぶ。
何と思い行ってみると、智樹が道着をはだけさせてお腹を見せてきた。
「すごい...。」
智樹の腹筋が割れていた。
といっても先輩たちみたいにバッキバキではなくうっすらとだけど、一応6つにわかれているのが確認できる。
「すげーだろ？毎日筋トレ頑張ったんだ。」
僕は制服をめくって自分のお腹を見てみた。
確かに脂肪はないが、筋肉もあまりない。
触ってみると少しプニプニする。
「柔らかいな～。俺のなんか硬いんだぜ。触ってみろって。」
そう言って無理矢理僕の手を自分のお腹に触れさせた。
「ホントだ。硬いね。」
「だろ？この調子じゃ俺が大会に出るのは時間の問題だな。」

うちの部では中2から地区大会に出場することができる。
しかし、先輩の人数の関係で今年は中2は1人しか出られない。
他の中2は僕たちよりも弱いので、実質僕ら2人で1枠を争っていることになる。
智樹には絶対に負けられない！

「じゃあ先に道場言ってるぜ。幼児体型のユーキ君！」
悔しい...。
よし、今晩から筋トレをやろう！
僕はそう決意して道場へ向かった。


「今日は来月の大会に向けて、出場選手を決めるための組み手を行う。本番と同じ気持ちで臨むように。それでは2人組を作れ。」


僕と智樹は迷わずにペアを組む。
この戦いで大会に出られるかどうかが決まる...。
僕は興奮していた。


一応出られない中1も組み手だけはやる。
そのあと中2も終わって、とうとう僕たちの番が来た。


僕らが所属している流派は、空手の中でも特に「実戦」に重点を置いたものである。
そのため組み手もポイント制ではなく、どちらかがギブアップするまで続けられる。


立って道場の中央に向かう途中、智樹がひそひそ声で耳打ちしてきた。
「俺今日お前の腹しか狙わねーから。腹筋割れてないお子様ユーキ君にはちょうどいいハンデかな。」
挑発だとわかっていたが、僕にだって意地がある。
「じゃあ僕も智樹のお腹しか狙わないよ。そんな見せかけの腹筋なんて僕の突きで一発さ。」


畳何畳かの隙間をあけて相対する。

「始め！」


先に動いたのは勇気だった。
腰を落として、智樹の腹筋に突きをたたきこむ。
ドシッ！
「ウッ...。」
年齢よりも幼い顔が少し歪んだ。
しかしこの程度でダウンする智樹ではない。


バキッ！
「グハッ.........。」
今度は智樹の突きが勇気の腹に命中。
智樹よりも腹筋が薄い分、ダメージも大きい。
勇気の動きが若干鈍る。
それを智樹は見逃さなかった。


ドゴッ！バシッ！ドスッ！
智樹のコンボだ。
流れるように、勇気の腹に突きと蹴りを決めていく。
「オッ、オェェェェェ.........。」
勇気はたまらず、口を押さえてかがみこむ。
しかしまだ試合は終わっていない。
声を出してギブアップを宣言するか、戦闘不能と判定されるまでは試合は続けられる。


「やっぱりユーキはお子ちゃまだな。こんなんでダウンするなんて鍛え方が甘いんだよっ！」
四つん這いの勇気の腹を、智樹が思いきり蹴り上げる。
ドボゴォッ！
「.........」
勇気は仰向けにひっくりかえったが、口を押さえたまま声を出すことすらできない。
胃を上がってくる吐瀉物を懸命に抑えている。


「大会に出るのは俺だ。お前はゆっくり寝てるんだな。あばよ！」
そう言うと智樹は拳を真っ直ぐに勇気の腹に落とした。


ドグシャァッ！
「オウェェェ......ゲボォォォォォ.........。」
勇気はたまらず嘔吐し、そのまま意識を失った。




大会に出た智樹はベスト4という優秀な成績を収めた。
一方僕は神聖な道場を吐瀉物で汚した罰で、1か月間部活停止となった。


部活停止が明けた後、何度も智樹にリベンジを挑んだが、毎回大敗してしまう。
どうやらあの一戦が僕たちの運命をわけたようだ...。